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25.9.29 マレーシア新政策「PuTERA35」と現地ビジネスに必要な視点
25.09.292024年8月19日、マレーシア政府はブミプトラ(マレー系・先住民族)の経済的地位向上を目指す「ブミプトラ経済転換計画2035(通称:PuTERA35)」を正式に発表しました。*1 この政策は、国内の社会構造とビジネス環境に大きな影響を及ぼす可能性があり、今後マレーシア市場への進出を検討している企業にとっても、見逃せない転換点となります。
歴史的背景:NEPからPuTERA35へ
本政策の起源は1971年、民族間暴動(1969年5月13日)を受けて導入された「新経済政策(NEP)」にさかのぼります。当時、経済的に不利な立場にあったブミプトラ層への支援を通じて、貧困削減と経済構造の再編成を目指しました。この方針は、その後の国家開発計画(NDP)、新経済モデル(NEM)などにも引き継がれ、今回のPuTERA35はその最新かつ総合的な再設計です。
PuTERA35の3本柱とビジネスへの影響
1.経済基盤の強化
ブミプトラの経済参加を「量」から「質」へとシフトする本政策では、以下のような具体的目標が掲げられています*1*2*3:
高技能職の割合を70%へ(2022年:61%)
企業株式の所有率を30%へ(2020年:18.4%)
ブミプトラ企業のGDP貢献度を15%へ倍増(2020年:8.1%)
起業支援・事業承継の促進
AI・半導体など先端分野へのブミプトラ人材投入
▶ ポイント:政府は特に高度人材の育成と、先端産業でのブミプトラ参加を重視しています。人材確保・パートナー選定時にこれらの枠組みを考慮することが求められます。
2.ガバナンスの改革と実効性の追求
過去には多額の資金投入が成果に結びつかない事例も多く、アンワル政権は透明性と責任ある運用に重点を置く方針を明示。Khazanah NasionalやPETRONASなど政府系企業も対象に、すべての事業がPuTERA35に合致するよう調整が進められます。
▶ポイント:マレーシア進出時には、政府系企業や機関との連携時にPuTERA35の整合性チェックが求められる可能性があります。
3.地域開発の推進
PuTERA35は単なるブミプトラ優遇策ではなく、「貧困と所得格差の解消」に重きを置いた国民全体への再配分政策でもあります。とくに開発が遅れるサバ・サラワクなど東マレーシア地域への投資誘導が期待されており、地方におけるビジネスチャンスの広がりにも注目です。
▶ポイント:地域格差是正を掲げる政府方針に沿った事業(インフラ・教育・エネルギーなど)は、政策的後押しを受けやすい傾向にあります。
MADANIビジョンとの連動と民間企業への期待
PuTERA35は、政府の中長期国家構想「経済MADANI」と密接に連携して進められており、成長産業(例:半導体、再エネ、AIなど)でのブミプトラ参画が不可欠とされています。
たとえば、独Infineonによる6億ユーロ超の半導体投資では、今後4000人規模の高度人材が必要とされており、TVET(職業訓練制度)の拡充によってブミプトラ層の人材供給が計画されています。ここに民間企業の採用・研修協力が求められることになります。
多民族国家での持続可能な共生モデル
アンワル首相はPuTERA35について、「ブミプトラの権益拡大は他民族の排除を意味しない」と明言。中華系、インド系、DayakやKadazanなどの少数民族にも必要に応じた支援を提供し、国全体の安定と発展を志向しています。
▶ポイント:人材開発・地域開発・CSR活動などで“多民族共生”の視点を取り入れることが、現地社会との信頼構築に有効です。
まとめ
マレーシア市場では、今後「社会的包摂」「高技能人材」「地域開発」といったキーワードが政策主導のもとで重要性を増していきます。PuTERA35の具体的数値目標や施策の方向性を踏まえた上で、現地企業との提携や人材育成、ESG対応などを検討することが、競争優位の構築に繋がります。
今後のマレーシア事業戦略においては、PuTERA35の制度と調和した進出モデルを描くことが求められています。
参考文献