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25.9.15 数字で読み解くマレーシアの消費ポテンシャルと市場構造

25.09.15

マレーシアという国に、どんなイメージをお持ちですか?東南アジアの一国というだけで「成長している」「コストが安い」といった漠然とした印象を持たれがちですが、実は地域ごとに大きく異なる顔を持つ、非常に多層的な市場です。本記事では、最新の家計収入と支出データをもとに、ビジネスの可能性をわかりやすくひも解いていきます。

 

全国平均から見るマレーシアの“今”

マレーシア統計局*1 が発表した2022年の平均世帯収入はRM8,479(約27万円)です。これは2016年からの年平均成長率(CAGR)2.4%という安定した伸びを示しています。中央値はRM6,338(約20万円)で、こちらも年2.5%のペースで増加しています。中央値が平均よりも低いことから、富裕層の収入が全体の数値を押し上げている構造が見えます。

つまり、マレーシアでは”一部の高所得層”と“多数の中間層以下”という構図が存在していると言えます。価格戦略や商品ポジショニングを考えるうえで重要な市場データです。

 

地域別データに見るターゲットエリア

地域別で見ると、最も収入が高いのはプトラジャヤ:RM13,473(約43万円)、次いでクアラルンプール:RM13,325(約42.6万円)、セランゴール:RM12,233(約39万円)といった都市部に偏っています。こうしたエリアは生活コストも高いですが、それを上回る収入水準があり、プレミアム製品やサービスの需要が十分に存在します。

一方で、ジョホール(RM8,517/約27.3万円)やプラウ・ピナン(RM8,267/約26.5万円)などの一部の地方都市でも、着実な所得水準が見られます。中価格帯の商品やサービス、日用品、教育、金融など多様な分野での市場開拓が見込める地域です。

 

ジニ係数から見える「市場の構造」と課題

2022年のマレーシアのジニ係数は0.404です。この「ジニ係数」とは、所得の格差を示すもので、0に近いほど平等、1に近いほど格差が大きいことを意味します。

比較のために他国を見ると、南アフリカは0.62で非常に大きな格差社会、アメリカは0.40でマレーシアと同水準。日本は0.34で比較的格差が少ない国とされています。*2

※すべて再分配後の可処分所得ベースのデータ

この比較から、マレーシアはアメリカ並みに格差のある社会であることがわかります。

 

さらに注目すべきは、マレーシアのジニ係数が過去約40年間、ほぼ横ばい(0.39〜0.44の範囲)で推移している点です。つまり、経済成長が続いても、格差が大きく縮小するような構造的な変化は起きていません。

これは、都市部の発展に比べて地方の所得が伸びにくいこと、教育・雇用機会の地域格差、都市への富の集中などが影響していると考えられます。マレーシア政府は格差是正に向けた政策を重ねてきたものの、依然として「地域による所得格差がある市場構造」が続いているのです。

 

このことは、企業にとっては「すべての層を一つのアプローチで捉えるのは難しい」ことを意味します。たとえば、高所得層向けには都市部での高級商品、小売、教育・医療サービスが有望です。一方、低〜中所得層向けにはコストパフォーマンスの高い商品や、分割払い・サブスクリプションなどの柔軟な提供方法が求められます。

 

まとめ

マレーシア市場は、平均的に見れば着実に成長しており、消費力のある層も確実に存在します。しかし、ジニ係数という指標が教えてくれるのは、この国には「分厚い一つの中間層」があるのではなく、「ばらつきのある層が並存する構造」だということです。

だからこそ、マレーシアに進出する企業には「誰に届けるのか」を明確にし、エリア・所得層ごとに戦略を練ることが不可欠です。40年かけて変わらなかったこの構造は、裏を返せば“変わらずに存在し続ける”チャンスとも言えます。マレーシア市場、その複雑さの中にこそ大きな可能性があります。

 

参考文献

1* マレーシア統計局| 家計収入と支出

2* GLOBAL NOTE | 世界のジニ係数 国別ランキング・推移

 

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