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24.10.16 ASEANと日本車:自動車産業の未来

24.10.16

ASEAN地域は、経済成長とともに自動車産業が急速に発展している市場です。特に主要6カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム)において、自動車の需要は拡大しており、その中でも日本車は非常に高い人気を誇っています。今回は、ASEAN地域における日本車の需要と関連する自動車部品市場の現状、さらに今後のEV(電気自動車)普及に伴う自動車産業の未来についてお伝えします。

 

表1 世界の左側通行の国

※wikipediaからWVCが作成

 

日本車の高い需要
ASEAN主要6カ国のうち、ベトナム以外は左側通行、右ハンドルという日本と同じ交通ルールを採用しています。このため、輸入された日本車はそのまま使用可能であり、現地での大規模な仕様変更を必要としない点が大きなメリットとなっています。また、日本車は品質が高く、燃費が良いため、経済的にも環境的にも優れた選択肢と見なされています。特にタイやインドネシアでは、日本車の市場シェアが非常に高く、トヨタやホンダ、日産といったブランドが多くの支持を集めています。
さらに、ASEAN地域は人口が多く、今後も経済成長が期待されていることから、自動車の需要は増加傾向にあります。都市部の中産階級の拡大に伴い、個人が自動車を所有するニーズが高まっており、日本車は信頼性の高いブランドとして多くの人々に選ばれています。

 

自動車部品市場の成長
日本車の需要が高いASEAN市場では、これに伴い自動車部品や関連製品の需要も急速に拡大しています。特にタイやインドネシアは、東南アジア全体の自動車製造拠点としての地位を確立しており、多くの日本企業が現地で自動車部品の製造や販売を行っています。ASEAN各国では、日本の自動車メーカーが進出しているだけでなく、そのサプライチェーンも現地で展開されており、現地企業との提携や合弁事業が進んでいます。

特に、タイは「東洋のデトロイト」とも呼ばれるほど自動車産業が発展しており、部品メーカーも数多く進出しています。これにより、自動車のアフターマーケットにおける部品供給が迅速に行われ、消費者の安心感が高まっています。また、ASEAN全体での自動車の普及に伴い、整備業やアフターマーケットサービスの需要も増加しており、日本製の信頼性の高い部品が重宝されています。

 

 

EV(電気自動車)の普及と日本車の未来
しかし、ASEAN各国では自動車産業において、ガソリン車から電気自動車(EV)への転換が進みつつあります。各国政府は、環境問題に対応するためにEVの導入を積極的に推進しており、その政策や目標は国ごとに異なります。

タイでは「30/30政策」を掲げ、2030年までに国内生産の30%をEVにすることを目標としています。また、EV購入時の補助金や税制優遇が導入されており、急速充電器の整備も進められています。タイはASEAN地域でのEV生産ハブを目指しており、日本車メーカーもこの波に乗り、EVの生産を強化する動きが見られます。*1

インドネシアは、豊富なニッケル鉱石を利用したバッテリー生産に注力しており、現地生産を促進する政策を推進しています。*2 日本車メーカーもインドネシアでのEV生産やバッテリー関連技術の開発を視野に入れており、今後の市場拡大に期待が寄せられています。

マレーシアベトナムでも、政府の補助金や税制優遇によりEV市場が拡大しており、特にマレーシアでは国内でのEV生産促進が進んでいます。*3 ベトナムでは2021年に初EVを販売開始した新興自国メーカーVinFastが急成長を遂げており、EV市場での日本車メーカーの競争は激化していく可能性があります。*4

フィリピンシンガポールでも、政府主導のEV政策が進められており、フィリピンでは2023年1月に5年間EV及び部品の輸入関税を免除する大統領令が発令されました。この際HV車は関税撤廃の対象となっていませんでしたが、*5 2024年にHVやPHEVも対象にしていく政策の見直しが行われており刻々と変化しています。*6 ​​ 一方、シンガポールでは2040年までにガソリン・ディーゼル車の段階的に廃止を既に進めており、EVへの移行が加速しています。*7

これらの国々のEV政策により、今後ASEAN全体でのEV普及が進むと予想されますが、ガソリン車の需要がすぐに消えるわけではありません。多くの国では、インフラ整備やコストの問題から、ガソリン車やハイブリッド車が引き続き主力となる可能性が高いです。特に農村部や地方都市では、ガソリン車の方が依然として利便性が高いため、日本車メーカーが強みを持つガソリン車やハイブリッド車の需要も引き続き高いと考えられます。

 

まとめ:日本車の未来に向けた注目点
ASEAN地域における日本車の需要は引き続き高い一方で、EVへの移行が進む中で、日本車メーカーは新たな挑戦に直面しています。各国の政策や市場動向に応じた製品戦略が求められる中、今後も日本車がASEAN市場で強い存在感を維持できるかどうかが注目されます。特に、EV市場の成長とともに、自動車部品やアフターマーケット関連の需要も大きく変化することが予想され、日本企業にとって新たなビジネスチャンスが広がっていくでしょう。

参考文献
1* ジェトロ | EV委員会、EV充電施設およびバッテリー生産の目標を設定
2* ジェトロ | 国内生産が進むEV産業(インドネシア)
3* ジェトロ | 2030年までのEV普及を目標、充電網の拡充など事業者の動き加速(マレーシア)
4* ジェトロ | ビンファストが年間3万台超のEVを納車、中国EVメーカーも参入(ベトナム)
5* ジェトロ | 電気自動車(EV)への関税を5年間撤廃、ハイブリット車は対象外
6* 日本経済新聞 | フィリピン、輸入エコカー免税拡大
7* ジェトロ | 電気自動車普及を後押し、2040年までにガソリン・ディーゼル車を段階的に廃止へ

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